3限目の国語

今は3限目、国語の時間。
ここ4年2組の授業の内容はいつもと少し変わっていて、5~6人の班ごとに机をくっつけて、ある物語の感想を話し合ってまとめて最後に発表するというものだった。
その物語は国語の副読本にのっている「湖の森のひみつ」という、少し長めな外国の物語で、同じ小学4年生のジョンという男の子とキャサリンという女の子が二人とも主人公みたいな話だった。

この二人は近所に住んでいて、おまけに二人のお父さんが同じ会社に勤めているので、本人だけでなく家族ぐるみで仲が良くて、毎年、夏休みの時期になるとお父さんたちは休暇をとって家族で一緒に湖がある森の中でキャンプに行くことなっていた。この物語もそんなキャンプ中のできごとだった。
ある日、お父さんたちが湖に釣りに行くので二人は連れて行ってもらったが、釣りに熱中するお父さん達の一方で早々と釣りに飽きた二人は、釣ざおを置いて湖の周りの森に遊ぶことにした。

湖の周りの森に何回かそこに来たことがあるジョンは、二人の家族を含めて誰も知らない、ひみつの場所を知っていると言い出し、初めて来たキャサリンも興味半分でついていく。
でも結局二人は、そのひみつの場所にたどり着けないまま家族からはぐれてしまい、森の中でいろいろな冒険を重ねたあと、無事二人の家族に発見されるというハラハラドキドキのお話だった。
この二人は本当は仲良しなのに、話のなかでは、ふだんから学校でも家でも何かにつけてけんかしていた。森の中で迷っているときも、このまま戻るか進むかとか、一方が弱音を吐くとかいったことで意見が対立し、二人はいつものようにけんかを始めてしまい、そのたびにピンチに陥るけど、なんとか仲直りして助け合ってピンチを切り抜けていった。
クラスにはお父さんが夏休みに休暇をとってキャンプまで連れて行ってもらえるような子は誰もいなかったけど、こういうストーリーなので、本筋から離れてふだんの学校生活の中でのクラスの男子と女子の対立も話が及び、どちらの立場で考えるかで議論は大盛り上がりだった。
特に議論が白熱したのは「きけん! この先は行ってはいけません」という看板が出て来る場面だった。二人はどれだけ森の中を歩いてもこの看板が道の真ん中に立っているところに戻った。そこで「この先行ってみよう」と主張するジョンと「決まりは決まりよ、行ってはいけないわ」と反対するキャサリンが口論を始めるのであった。
ぼくの班でも、いつものことだけど、よしお君と昌子ちゃんの二人の間で激しい議論がはじまった。よしお君が「看板の先に行かないと森から出られないかもしれないよ」と主張するのに対して、晶子ちゃんが「やはり決まりは決まりよ。守らないと危険だわ」と反論し、その二人の姿はお話のジョンとキャサリンが乗り移ったようだった。

でも議論はすぐに脱線して「だから男子は乱暴よ」とか「だから女はぐずぐずしてる」とか、ときどき普段からの男子女子のお互いに対する不満まで持ち出して、ただの口げんかとしか思えないくらい白熱していた。班の他の子たちもそれぞれの立場でよしお君と昌子ちゃんの議論に加勢することに熱中していた。当然、お互いの対立は平行線でいつまでも堂々巡りだった。

いつものぼくだったらこの白熱する二人にバケツで水をぶっかけるようなツッコミをいれるのが役回りだが、今のぼくはこの二人の議論にかまっているどころではなかった。おしっこがしたかった。いつ教室の誰もが気付かないうちに席を立つか。そして先生にこっそり断って、あの戸を開けて外に出て、そしておしっこに行くか、ということだけを考えていた。

でも、本当は、今のぼくはおしっこだけでそんなことを考えているわけでなかった。入学以来の初めての大ピンチがぼくにやってきていた。この学校で、しかも授業中なのに、うんちがしたくなっていたんだ。

それにお腹ももう痛かった。ただ痛いだけじゃなくて、ときどきそれを壊した時独特のあのぐじゅぐじゅという不気味な音まで立てて、ちんちんとお尻の両方から攻められる、きけんな状態だった。少しでも気を許したら両方一度に噴射しそうだった。

でも、もしうんちだけだったらぼくは席を立つこと なんか考えないで、このまま授業が終わって家までガマンしようと思ったはずだった。今学校にいるのにうんちなんかで席を立ってトイレに行ったら、ぼくはこの小学校の4年2組の子じゃなく て、学校でうんちしたウンコマンになってしまう。

ウンコマンになるのは恥ずかしいことだった。何より学校は本を読んだり字を書いたり計算するようなきちんとしたことをする場所で、ズボンやパンツを下してお尻を出すようなエッチなことや、汚くて臭いうんちを出すような場所でなかった。なのにウンコマンは学校でお尻を出してうんこして、そこがトイレであっても、みんなの校舎や教材や教科書を汚すようなことをやるんだ。

そんなウンコマンになることにぼくは耐えられなかった。だから「ぼくはこれから授業中席を立って、おしっこしに行くんだ、うんちするんじゃないんだ。うんちはがまんするんだ。」と何べんでも自分に言い聞かせた。あくでもおしっこに行くならば自分でも、席を立つことは許せた。

でも、どう考えても、とても家までうんちをがまんできそうもなかった。今日は6限まであるというのに、3限が始まったばかりだった。幸い体育の授業は今日はないけど、途中には4限と5限の間に給食があるのが難関だった。もう口にパンや牛乳を含んで飲み込んだだけでアウトになりそうだった。こっそり給食を全部残しても、その次に長い昼休みもあった。とても昼休みの間いつものように体育館でクラスの子たちと一緒に走れもなかった。それも何か言い訳をつけて遊びに行くのを断って乗り切って終わりの会までガマンできても、家まで30分かかるし、途中トイレもないし・・・。

そんな中、キャサリンとジョンで大騒ぎになっているこのクラスの状況はぼくにとって唯一 の希望だった。

今ならみんな席を立っても気づかないだろう。このまま席を立ってとにかく教室を出ることはできそうだった。それからぼくは結局ウンコマンになってしまうけど、それで楽になるし、そうしないと、ぼくにはあの二年生のときのゆうすけ君と同じ運命が待っていることはわかっていた。

 

ゆうすけ君のときも国語の時間で、その授業は教科書の内容を前の席から先生が指定した分だけ順に読んでいくということをやっていた。そしてゆうすけ君の番がきた。でも、かれはお腹のあたりを抱えたままじっとうつむいているだけで教科書を読もうとはしなかった。彼の沈黙の中、クラス中の視線がゆうすけ君に向いた。そのとき、先生は「どうしたの、ゆうすけ君。お腹が痛いの」うっかり聞いてしまった。ゆうすけ君は先生の問いかけに苦しそうに「う・・うん」と答えた。すると、たちまちクラスの男子たちは彼の事情を察してしまい、彼に罵声を浴びせ始めた。
「クソしたいんだろう、ゆうすけ」
「ここでしちまえよ、ゆうすけ」
ついにはクラス中の男子による「ウンコ!ウンコ!」の大合唱がはじまった。
ぼくはゆうすけ君のうつむく横顔を見た。苦しそうで、もうぎりぎりなのを必死に耐えていることがはっきりわかった。言ってしまえば、彼は今のぼくと同じ状況だった。

でも、今のぼくと違ってクラスの子たちの視線は彼一人に集まっていた。彼は一種の晒し者になって しまっていて、本当に追い詰められていた。このクラス内の席を立っても、確実に「男子児童便所」までクラスの男子の大半が追いかけてくるだろう。
 でも、ぼくはゆうすけ君の困っている状況を想像すれば想像するほど同情するよりも、この子がガマンできなくて目の前でズボンとパンツをおろしてうんちするところを見てみたい好奇心が優ってきて、なんだかドキドキしてきたので、ぼくも「ウンコ!」の大合唱に思わず加わってしまった。もちろん、先生は「こらっ!やめなさい」と言ってもウンココールは収まらなかったので、仕方なく「ゆうすけ君、お便所に行きましょうね」と彼を連れ出そうとしてあわてて駆け寄っていった。

するとゆうすけ君は「お便所なんかいきたくないよ、読むよ」と言って教科書を手にしかけた。その声は震えていた。でも、彼は教科書を手にできずに、突然顔を伏せてわぁんと泣きはじめた。同時に彼の方がら鈍い音が響いて、教室中に臭いが漂った。ゆうすけ君はズボンの中にしてしまったんだ。
しかも彼はおしっこもがまんしていたらしく、ズボンの隙間から茶色い塊がころがり出て来ると同時に椅子に水のような液体が流れた。まわりの女子は悲鳴を上げ。クラス中の男子は「くせー」と「きたねー」とか「学校はウンコするところじゃないんだよ!」とゆうすけ君に罵声を浴びせた。その後、ゆうすけ君はみんなの見守る中、一階の玄関わきの足洗い場でお尻をあらわれた。ぼくもクラスの子たちと彼がお尻を洗われるのをみながら、やはり学校はうんちするところでないことを実感していた。まさか、4年生にもなって彼と同じ事態が近づいてくるなんて夢にも思っていなかった。

ぼくは一年生の頃からこの日まで学校で一度もうんちをしたことかなかった。

この学校の校舎に初めて行ったのは入学前の「一日入学」だけど、その校舎は当時ぼくが住んでいた田舎町のはずれの田んぼを埋め立てて建てられた、町の唯一の鉄筋コンクリート3階建ての建築物だった。

「一日入学」で初めて入るその校舎はどの教室も真っ白いコンクリートのベランダを除いて一面が透明なガラスが入った大きなアルミサッシ埋め尽くされていた。その中で授業を受けている子たちが外から丸見えで、ぼくにはそれがまるで巨大なガラスの塊のように見えた。

校舎の中も新築だけあって設備が県下最新で、各教室に白黒だけどテレビがあって、放送室のスタジオからそれぞれのテレビに映像で流せるシステムとか、ビデオ(家庭用ビデオが普及するのはそれから十年ほどかかった)とか、給食を各階に運ぶエレベータとか、集中暖房とか、この町のはずれに突如として現れた未来みたいだった。

そして、玄関のすぐそばの一年生の教室に入ると、外見通り校庭に面した外側は一面大人の背丈ぐらいありそうな透明なガラスがはめ込まれた大きなアルミサッシが取り付けられていて、校庭に植えられた木や池がよく見えた。そしてそこから差し込んでくる早春の日差しは「ようこそ! みんなのおにいさん・おねえさんより」とチョークで大きく書かれた黒板と並べられた机やいすを照らしていた。

机の椅子に座ると。まずぼくたちは家で書いてきた真新しい学校の名札を上級生のお姉さんお兄さんに付けてにもらった。名札には紫の地に木の葉を三枚が描かれた校章の刺繍が入っていて、その下に「1年 組●●●」と書かれてあった。まだ入学前でクラスは決まっていないので組だけが空欄だったけど、ぼくたちはこれでこの学校の子どもになった。

そして大きなアルミサッシから差し込んでくる日差しを浴びながら教室で数字棒やおはじきの入った算数セットを受け取り1から10まで数えたり、もらったばかりのクレヨンで絵をかいたり、先生が引く教室のオルガンで「たのしいね」を歌詞を教えてもらって歌ったりと小学校ですることを一通りしてみた。最後に学校のきまりの説明を受けてからみんなで校舎見学に出かけた。

そのあと、ぼくたちは年取った男の先生に連れられて校舎見学で校内のあちこちを見て回ったけど、廊下もグランドに面した側は大きなアルミサッシから差し込む日の光を反射してまばゆい光を放っていた。薄い灰色のリノリウムの貼られた床もツルツルのピカピカで、学校のきまりを破ってふざけて走ったりすると先生に怒られる前に確実に滑って転びそうだった(実際、ぼくは数回転んだ)。

そしてトイレを見学する番になった。それは一階の一年生の教室がある付近の西側のトイレで、入り口にはこの小学校のどのトイレもそうであるように「男子児童便所」「女子児童便所」というプレートが貼り付けてあり、入口には大理石の立派な手洗い場があった。中は、校庭に向いている南側は一面アルミサッシ張りの教室と違って小さな窓があるだけで、しかも取り付けられていたガラスは擦りガラスで、外の校庭は見えなくて薄暗かった。

右側に方には一面タイル張りの壁に、何も間についたてがない同じ形をした真っ白な陶器製の小便器が6つ等間隔で取り付けられていた、小便器にはボタンがついた銀色の真鍮のパイプがついていて、引率役の先生は「おしっこが終ったら絶対水を流すように」と念入りに説明した。さらに便器の上には「水を忘れずに流そう」とかかれた手書きのポスターが貼ってあった。

床は灰色のタイルが一面敷き詰められていて、タイルだらけのこのトイレはどこかひんやりした空気がただよっていた。本当に短い休み時間の間におしっこだけ済ませて、さっさと戻るための場所という感じだった。

でも、ほんのりおしっこのにおいがするだけで、普通の家や公民館や幼稚園の汲み取り式でお決まりのうんちやおしっこや消臭材の入り混じった刺激的な臭いはほとんどしないのにぼくは驚いた。それもそのはずで、この小学校はこの田舎町で唯一の水洗トイレが設置されている場所でもあったのだ。だから、この小学校には普通の家みたいにあのニオイを外に出す煙突みたいなものはついていなかった。

そして左側にまったく同じ姿の2つの個室があった。それぞれごく淡いベージュの板で囲まれていて。奥の壁だけは真っ白いタイルが貼られていた。そして、そのまっ白いタイルにはところどころオリーブ色のタイルを4つぐらい組み合わせた模様が入っていた。いつもは戸が閉まっていて中が見えない家や幼稚園の汲み取り式のと違って、入ってから内側からドアを閉める形式のものなので、中身が丸見えで、雪のように白い真っ白の陶器製の和式便器が金かくしが右向きに淡い灰色のタイルに埋め込まれているのが見学にきたぼくたちの足元に見えた。ここがぼくたちが入学後にお尻を出してしゃがむことになる場所だった。

でも、まったく同じその便器が丸見えで二つ並んでいる姿は、その光景を何もかも連想させて恥ずかしかった。それに水を流すための銀色の真鍮のパイプが絡みついているその姿はぼくの家の汲み取り便所と違ってまるでさっき見た理科室の実験機材のようにどこかキラキラと輝いていて、よそよそしくぼくたちを近づけそうもなかった。

そして引率していた先生は、僕たちの足元にあるその便器をまたいでしゃがみながらぼくたちが見守る中、ドアの閉め方鍵のかけ方から、雪のように真っ白なトイレットペーパーのちぎり方、そして銀色の真鍮のコックをひねる水の流し方に至るまで、この「男子児童便所」の個室の使い方を実演して説明してくれた。

この先生はぼくたちが学校でうんちすると思ってこうしてトイレの使い方を教えてくれているようだったけど、学校の決まりでは休み時間の間におしっこに行くこととともに朝学校に行く前に家で必ずうんちするとさっき教わったばかりだし、ぼく自身は幼稚園の頃から夜、それも三日に一回しかうんちしなかった。おかあさんから「三日に一度しか出なくて平気なの」とときどききかれることがあるけど、幼稚園でも一度もしたことなかった。だから、学校のきまりを教えられたとき、先生は「朝、毎日うんちする子、手を上げて!」とぼくたちに聞いたけど、みんな手を上げる中でぼくは手を上げなかった。学校に行く前に、しかも毎日そんなコトするなんて恥ずかしくて汚いなと思った。

それに校舎見学に行く前に絵をかいたり、簡単な字や数字の書き取りを教室でやったばかりなのにそういうことをする学校でうんちするなんて、入学前のぼくたちにもヘンだった。新しい名札をつけてはれがましい気分のぼくたちがここでうんちするなんてとても信じられなかった。学校でうんちするのはこのきれいな校舎を汚すみたいでイヤだったし、あのおしりの穴からうんちが出て来るときの気持ちよくて恥ずかしい感じが学校で本を読んだり字を書いたりすることと全然正反対なものすごくエッチなことのような気がした。

だから、ぼくは先生が背広姿で便器にしゃがむ姿をみて、みんな「そんなエッチことしないよ」という顔であははっと笑った。そこにいるみんなも同じことを考えていたのか同じようにあははっと笑った

あと気になったのは先生がドアを閉めたとき下に大きな隙間が見えたことだった。家や通った幼稚園は昔からの木の引き戸の汲み取り便所だから、閉めると完全密閉になるけど、幼稚園に入ったばかりの頃、おかあさんと買い物で行った大きな町のデパートの水洗トイレでうんちしたとき、このトイレみたいに隙間があることに気づいた。

小さかったぼくにはそのデパートのトイレの個室の隙間はひどく大きく見えた。ここでしゃがんでいる時、その隙間からのぞかれると絶対おしり丸見えになると思ってぼくは不安で仕方がなかったけど、この小学校の「男子児童便所」のやはりここでしゃがんでお尻を出したら、その隙間からのぞかれそうだった。ぼくは小学生になってもこの「男子児童便所」ではゼッタイうんちしないつもりだった。

 

それから間もなくして春が来て、ぼくは入学式を終えて1年生になり、はれて「1年3組」と学級の番号が入った本当の名札を付けて、その鉄筋コンクリート3階建ての未来のような校舎に毎日通うようになった。

一日入学のときに教えられたように、うんちは朝学校に行く前に家で済ませておくものだった。おしっこも本当にガマンできないときは仕方ないけど、そうでないときは授業中席を立ってトイレに行ってはいけなかった。おしっこはは必ず授業と授業の間の10分間の休み時間の間に学年ごとに決められた「男子児童便所」に済ませるの学校のきまりだった。

だから授業中に行かないためや、授業中にガマンしていたのをするために、休み時間になるとまず何よりも先に、ぼくたちはおしっこをするためにいっせいに教室の近くの「男子児童便所」に向かった。そこは、ぼやぼやしていると小便器の前にたちまち列ができて順番待ちになった。列にはまだ名前をおぼえていない、よその幼稚園や保育園から来た同じクラスの子たちや、もっと知らないよそのクラスの子たちが並んでいた。

入学式の日以来、ぼくはその列に並ぶたびに、後ろの出口に近い個室をちらちらと脇目で見ながら誰がクラスで最初にうんちに行くかずっと気になっていた。ぼくは行かないけど、個室がある以上、クラスの誰かが入るようなキタイがあったからだった。もし入る子がいたら、できたらドアが全開でうんちしている子だったらサイコーだけど、閉まっていても、ドアの隙間からのぞこうと思っていた。そのドアが閉まっている光景を想像しただけでどんな格好をして、どんな顔で、どういうふうにおしりからうんちが出て来るのか見てみたいという好奇心が起きてくるんだ。

でも、いつも順番を待つ子たちの「もれそうだよ、はやくしてよっ!」とか「終わったから先に行っているよっ!」といったおしゃべりでにぎやかな小便器の前にくらべて、それより入口に近くにあった個室の前は取り残されたように静かだった。誰かが並ぶことはもちろんドアが閉まっていることさえなかった。みんな、学校のきまり通りに朝にうんちしてくるらしく、おしっこが終わるとまるで「ぼくは学校でうんちなんかしないよ」というような顔で大急ぎでその前を通り過ぎて行くだけだった。ましてや夜、しかも三日に一回しかうんちしないぼくは学校の個室は無縁だと思っていた。

でも、ときどき学校でうんちしたくなったらどうしようと考えて不安になることはあった。4年生になった今でもそうだけど、ぼくは家ではズボンとパンツを全部脱がないとうんちできなかった。1年生だった自分でもみんなの前で脱ぐなんて考えただけで恥ずかしくできなかった。それに3日分まとめて出るから、ぼくの場合、うんちの時間がとても長かった。ここでしたら絶対に次の授業に間に合いそうもない・・・。


それからぼくはだんだん、始めは名前も知らなかった同じクラスの子たちと友だちになって遊ぶようになった。それでも休み時間いつ行っても「男子児童便所」の個室のドアを閉まっているを目にすることはなかったし、ぼくも学校でうんちしたくなることはなかった。不思議なことにぼくの知らないところであいつは学校でうんちしたウンコマンと囃し立てられる子はときどきいた。たまにゆうすけ君みたいに学校でがまんできなくておもらしする子はいた。でもぼく自身が個室のベージュのドアが閉まっているのを目にする機会は、それ以上にいなかった。

それでも休み時間、特に昼休みにたまにベージュのドアが閉まっていることはあって、こっそりとぼくはドアの下の隙間をのぞいた。のぞくとき、いつもあのドアの向こうで僕の足元ぐらいまでしゃがんでお尻を出して恥ずかしい思いをしているんだろうなとその光景と恥かしさを想像して胸がドキドキした。でも、その一方でその子は本当は勉強する場所である学校で汚いことをするいけない子で、のぞいてもっと恥ずかしい思いをさせてやろうという残酷な気持ちも起きてきて、余計のぞきたくなった。

でも、いつもそれは先生だった。先生が入っていることはベージュの下のドアの隙間からのぞけばすぐわかった。先生は足が大きくて、履いている運動靴のかかとの部分に名前が入っていなかったからだ。学校の決まりでは、児童の学校のうちばき用の運動靴は学校指定の青一色のもので、つま先に「3-2」とクラスを、かかとには「3年2組●●●」と名前を書かなければならないことになっていた。

ぼくは先生だとわかるとすぐにその場から逃げた。怒られるのが怖かったのも、もちろんあったけど、それ以上に大人のだとわかるととても汚い感じがしてぞの場から逃げたくなったんだ。でも、クラスの子の中には先生に同じことをして、おまけにしつこくウンコマンとからかったのでこっぴどく怒られた子もいた。そういうときに先生は決まって「人のうんこするところを見たいならば、自分のを見ていろ!」と怒るけど、自分のそのときの姿が見えたらたぶん恥ずかしいし、見たくても見えないから余計見たくなるんじゃないかとぼくは思った。


こんなに学校でみんなうんちしないならば、毎朝学校に行くときにうんちしてくる子はもちろん、三日に一回夜しかしないぼくは絶対学校ではしないと思っていた。でも、今、ぼくは4年生にもなって教室でうんちがしたくなっている。

最初にうんちしたくなったのは2時限目の理科の授業だった。ぼくたちは理科室で教育テレビの理科番組の夏のヘチマの成長の回を見ていたときのことだった。突然、少しおしりの穴付近がたまった感じがしたので最 初はおならかなと思った。三日に一度しかしないぼくのうんちも昨日の夜したばかりだっから、こ れも絶対うんちじゃなくておならだとぼくは信じて、音がしないように少しこっそりとおしりの穴をゆるめてみた。でも、収まらなかった。

その後、うんちだけはしたくないよと、ぼくは祈るような気持ちでうんちが引っ込むように何度もおしりの穴を締め付けた。ぼくはその間、おしりの穴のことだけが気になって気になってヘチマのつるの巻き方を先生に聞かれても答えられず、みんなに笑われた。

それでも締め付けると、うんちは一度はおなかの奥に引っ込 んでくれた。それでぼくは先生の話に耳を傾けることができた。でも、しばらくして、ぼくのお腹は一度引っ込んだもっとはげしくうんちはぼくのおしりの穴にせまってきた。6限ある日のまだ2限だというのにこんなので家まで我慢できるのかとても不安だった。それに、おまけにおしっこまでしたくなってきた。どうしようと思っていたところにちょうど終わりのチャイムが鳴った。それでぼくは真っ先に急いで教室の近くの「男子児童便所」に向かった。でも、ぼくがそのとき「男子児童便所」に行ったのは学校でうんちしてウンコマンになるためじゃなくて、おしっこをするためだった。

次の休み時間におしっこすれば、あとは終わりの会までがまんして、家に戻ってからうんちできそうだった。家のトイレは暗くて汲み取り式でニオイがするけど、そこでいつものように誰からものぞかれたりからかわれる心配はなくゆっくり思い切りうんちできるはずだった。

 

実は学校の授業中うんちしたくなったことは3年生だった去年一度あった。3年生になってクラス替えになり、新しいクラス3年2組になったばかりのある日、給食で休んだ子の分のおかずを食べたせいで5限の授業中に急にお腹が動き出して、うんちがしたくなったことがあった。そのときも本当に我慢できなくて、次の休み時間に今みたいに入学以来はじめてのウンコマンを覚悟した。今チャイムが鳴ったら、こっそり席を立ってあの「男子児童便所」に行こう。そればかりを考えているうちにチャイムは鳴った。
でも、席を立とうとしていたぼくをクラスの子たちは目ざとく見つけた。そして、いつものように「ションベン行こうぜ」と無遠慮に誘いかけきた。ぼくは彼らについていくしかなかった。ぼくは彼らについていく途中考えた。他の子たちが小便器の前の列に並んでいるときにぼく一人だけが個室に入るというのは論外だ。とりあえず、おしっこしたふりをしてあとで教室に戻り、度席に座り、彼らが見ていないすきにうんちに行けばいいやと思った。そして、うんちしたいのがバレるとまずいし、本当におしっこもしたかったので、小便器の前に立って、とりあえずちんちんを出して、おしっこした。すると、おなかの中でそれまでおしっこの隣でうんちとおしりの穴をおしていたもお腹の奥に引っ込んだ。おしっこをすればうんちも我慢できることをぼくはこっそり発見したんだ。

それから、ぼくは終わりの会までうんちのことなんてほとんど忘れて授業に集中できた。もちろんぼくのお腹の中のうんちは消えたわけじゃなくて、下校中またしたくなった。家に着くころは本当にもらす寸前までなっていた。ぼくは家の戸を開けるといつもと違って「ただいま」と小さな声で言った。大きい声なんか出なかった。

おかあさんは買い物に出かけているらしくて、靴もなければテレビの音も聞こえず、昼間だというのに静かだった。ぼくは急いで靴を脱がなかければならないので、持っていた青いビニールの手提げを放り投げて靴を脱ぎ土間から床に上がった。いつもならランドセルや「交通安全」と書かれた黄色い帽子もここで脱いでかけておくけど、今は脱ぐ余裕がなくて。ただ靴だけ脱いで上がり全力で家の廊下の一番奥の方にあるトイレに走って向かった。

途中じゃまな黄色の帽子を脱ぎ、そして重くてぼくのおなかのうんちを押しているみたいなランドセルも脱ぎ捨てた。トイレの引き戸の前に来ると、いつものようにまずズボンを脱ごうとした。ところが半分脱いだところで靴下がズボンに引っかかってころんでしまった。そのとき床に膝をぶつけて少し痛かった。でも、もれそうだったので、そのまま強引にズボンごと靴下を脱ぎ捨てた。最後にパンツを下して足元に脱ぎ捨てて、いつものようにふりちん姿になった。これで何も邪魔するものはないことにぼくは安心してトイレに入った。でも本当にもれそうだったのでぼくは乱暴に引き戸を閉めてしまった。誰もいない家じゅうに響きそうなバタッというものすごく大きな音がした。

そしてぼくは大急ぎで便器をまたいでしゃがむと、今日も学校でウンコマンにならずに済んだことにほっとして夜に三日分を出すときと同じくらい思いっきりうんちやおしっこをした。

でも、終わっておしりをふくために黒ちり紙に手を伸ばしたときに、上半身は学校から帰ってきたままの服のついていた3年2組の名札が目に入った。そのとき今日は運よく家までガマンできたけど、ぼくもいつか家まで間に合わなくて学校でウンコマンになるかもしれないとちょっぴり不安になった。

 

ぼくも今日の2限の終わりまでは3年生の時のようにまたおしっこすれば家までガマンできると信じていた。それにこの2限と3限の間の休み時間は理科室での移動授業で、次の国語の授業のために4年2組まで戻る途中、西側の「男子児童便所」に着くと、そのときもいつものように小便器に向かいおしっこを始めた。

ところが、ぼくにこれまでに経験したことがないことが起こった。おしっこ中に、うんちは引っ込むどころか、だんだんしたい感じも強くなっていった。これ以上おしっこを出そうとすると両方とも一度に出てきそうになったので、両方の穴を閉めてあわてておしっこを止めた。そのときうんことおしっこが逆流してくる感じはとても苦しかった。吐くかと思った。

それから、小便器を前にしてうんちとおしっこの二つの敵を相手にしたぼく一人の戦いが始まったんだ。おしっこを出そうとちんちんを緩めるとといっしょにうんちまでせめてきた。それでうんちを押し返そうとおしりの穴を閉めるとおしっこが出せなかった。それでも何とかおしっこだけ出そうとぼくは努力した。でも、おしっこは数滴出ただけでどちらも収まらなかった。それどころかぼくがこれ以上おなかに力を入れたらどちらが出て来るかわからないところまで追いつめれてしまった。ぼくは入学以来はじめての大ピンチを迎えてしまった。

そのとき、ちょうど壁の向こうの「女子児童便所」から個室のドアを閉める音とかおしっこの音とか水を流す音とかいろいろな音が聞こえてきた。二人や三人なんかで連れ立って来ていて、外の子が「●●ちゃん、まだ?」ときいて、入っている子がおしっこの音とともに「ちょっと待って、今すぐ出る」と返事する女子たちの気楽なおしゃべりが聞こえてきた。ぼくにはそのおしゃべりがうらやましくて仕方がなかった。ぼくがあの個室に入っている最中に外から「おまえ●●だろう?」と聞かれても、絶対答えられない・・・。

女子も学校でのうんちは恥ずかしいからしたくないと言っているのは聞いたことはある。でも、これからおしっこするような顔をして個室に入れば中でどちらをしようと誰も見ていないし、「女子児童便所」の個室のドアが閉まっているのはいつものことなので男子をふくめて誰も気に留めない。

しかも、女子の場合、どっちもしゃがんでおしりを出してすることには違いないので、ぼくのようにおしっこしている最中にうんちしたくなったら、ためらうことなくおしっこの穴と一緒におしりの穴のほうも思いっきり開くだろうな。そして両方終わったら、まるでおしっこだけしましたという顔をして個室から出て手を洗って教室に戻るんだ。
でも、ぼくはオトコだった。あの後ろにある個室に入ってドアが閉めれば、そこは「男子児童便所」で、ぼくはオトコだからその場でウンコマン認定だった。しかも今休み時間で廊下にはたくさんの教室移動や体育館の遊びに行く子たちがたくさん歩いていた。「女子児童便所」と違ってめったに閉まることのない「男子児童便所」の個室のドアを閉まろうものならば、たちまち注目の的になって、うんちしているぼくをのぞいたりからかおうと集まっくるんだ。

ふだんは女子はおしっこするたびにおしりを出さないといけないから大変だと思っていたけど、うんちしたくなったときは男子に比べたらおしっことうんちの間の壁が低くていいな。今のぼくにはそんな女子がうらやましくて仕方がなかった。しかし、ぼくが越えなければならない壁はその男子にだけある高い壁だった。その高い壁を登れとおしっこが僕の背中を押していた。仮にうんちだけならば家までがまんできても、おしっこは次の休み時間どころかこの次の授業中に限界を迎えそうだった。でも、おしっこだけしようとしても、うんちが出てきそうで、家でのうんちはもう絶望的だった。

そして、ぼくはおしっこをこの場でもらさないためにも、恥ずかしいけどウンコマンにならなければならないことを覚悟した。でも、そのとき、まだ学校でウンコマンになろうとしている自分をまだぼく自身許せなかった。ただ、おしっこをするためにはウンコマンになるのは仕方ないんだ、こっそり入れば見つからないよ、そのようにぼく自身に言い訳する自分もいて、それはやがて何でもいいからラクになりたいという気持ちの支援も受けてぼくの頭の中で圧勝した。

そんなことを考えているうちに、この教室と違って薄暗い「男子児童便所」にはぼくと、隣の同じ組のさちお君だけが小便器の前に立っていた。もちろん個室は開いたままだった。ぼくはちんちんを持っておしっこをしているふりをしながらさちお君が去るのを待った。さちお君がおわったら絶対あの個室に入ろう、ぼくははそう心に決めていた。

でも、さちお君はよほどガマンしていたらしくて、はーっと気持ちよさそうにため息をつきながら長くじょぼじょぼという音をさせていた。その時間はぼくにはとても長かった。それは、ただうんちとおしっこの両方で苦しかったというのもあるけど、さちお君のおしっこが終わるまでの時間がぼくが個室に向かう覚悟をしなければならない時間だったことが大きかった。さちおくんが「男子児童便所」を出て4年2組の自分の机に座っているころ、ぼくはあの個室の中でお尻をだして便器にしゃがみウンコマンになっているんだ・・・。

 

そんな入学以来ついさっきまで自分は絶対しないと思っていたことをこれからすると思うと何かしてはいけないことをするときのようにぼくの胸はドキドキした。でも、さちお君のおしっこは彼が隣に立っているぼくがそんなことを考えているなんてまるで気付かないかのようにじょーっと気持ちよさそうに続いていた。
それからしばらくして、さちお君の音はようやく止まった。そしてぼくがウンコマンになるときがきた。でも、彼はちんちんをふりズボンにしまいながら、そんなぼくに「お前もションベン長いな」とおせっかいにも聞いてきた。ぼくがうんちしたいのが彼にばれたらどうしよう、と頭がパニックになり胸のドキドキが最高潮に達した。やっと「ちょっと・・・」と答えかけたとき、さちお君は「オレ先にもう行くよ!」とチャックを閉めて、走ってトイレの出口に向かった。よかった、彼はいまのぼくを気にしていなかった。彼は何かあるのかぼくを気にするどころか手も洗わずにそのまま教室に戻った。「ちんちんを持った手を洗わないなんて汚ねーな!」ぼくは思わず心の中でつぶやいた、ぼくはこれからもっと汚いことをするけど。でも、それから手洗い場に長々と手を洗っているよりは早く苦しみがおわるわけでぼく自身にとってラッキーだった。これで「男子児童便所」には前の手洗い場もふくめてぼく以外には誰もいなくなった。今がうんちする絶好のチャンスだった。ぼくはちんちんをしまいズボンのチャックをあげて個室に向かって歩いた。

ぼくのいた西側の「男子児童便所」は個室は二つあって、ほかのと同様に内側からドアを閉めるものだけど、ぼくは入口から遠い方に向かった。もう隣の「女子児童便所」の声も聞こえなくなったことあって「男子児童便所」は授業が終わり学年の子たちが押し寄せてきた最初の数分前がうそみたいに静かだった。その中、個室に向かうぼくの運動靴がたてるパタパタという音だけが響いた。
ぼくは個室の前に立った。外の廊下は教室を移動する子たちが絶えることなくにぎやかだったけど、そのベージュの板で囲われた一角は薄暗くてそれらの物音をすべて吸い込むかのように静かだった。そして、ぼくはこれからその上にしゃがむ便器を思わずまじまじと見た。

ぼくのおしりと今にもつながろうとしている灰色のタイルに埋め込まれているその白い陶器のくぼみはあまり使われた感じはなかった、それには水を流すための銀色の真鍮のパイプとコックがまるで絡みつくように取り付けられていて、ぼくのものみたいな肌色のものが鏡のように見えていた。このコックをひねると後ろの穴から水を流れて金かくしの下の深い溝に落ちる形式だった。

便器の底を見ると真っ白で平らで陶器のお皿のように見えた。そのお皿には水が少したまっていて廊下のサッシから差し込む光を反射して白くキラキラと輝いていて、のぞきこむと便器はぼくのおしりが待ちきれないのか顔みたいなものまでぼんやりと映してた。その白いお皿の輝きはぼくの今まで見たどんなものより白くまぶしく見えた。ぼくはこのおしりの穴とちんちんがいっぺんにピンチになっている感覚とともに、そのとき見た便器の白のまぶしさを一生忘れないような気がした。

そして、そのまっ白いお皿の上にぼくのうんちがお尻から落ちるとき、ぼくはとうとう学校でうんちしたウンコマンになってしまう。でも今のピンチから一気に解放されてラクになるのも確かだった。ぼくは今おなかの中のうんちが全部出て真っ白いお皿の上のバナナのように盛られている全てがラクになった光景を思わず想像した。

実はぼくは自分のうんちをはっきり見たことは記憶になかった。家のトイレはこんな白いお皿ではなく汲み取り式の暗い穴だった。ぼくも家でうんちしたあと、いつもどんなのが出たか気になってその暗い穴をのぞくけど、おしりをふいた黒ちり紙もいっしょに捨てることもあって、よほどたまってこない限り、自分のうんちが見えることがないし、見えても暗くてはっきり見えなかった。でも学校で誰かが流し忘れたうんちは見たことがあって、家と違ってうんちは丸見えだった。それを思い出してぼくは少し恥ずかしくなった。

でもラクになるためには、まずおしりを出さなければならなかった。便器もぼくのおしりが待ちきれないのか大きな白い口をあけていた。ぼくの頭に浮かんだのはいつも家でするようにドアの前でズボンとパンツを脱ぐことだった。

1年生だったころはうんちしたくなったたら家の中ならば居間でもどこでもその場で脱いでトイレに向かったけど、4年生になった今は、恥ずかしくなって誰も見てないすきを見計らって、トイレの戸の前で脱いでいる。でも、ぼくがふりちんでトイレから出てきて大急ぎでパンツをはいている時に、おかあさんに脱がないで、ズボンとパンツを半分おろしてできるようになりなさいと注意されるけど、うんちやおしっこの出るところの至近距離になって汚れそうだし、穴の底から上ってくる汲み取り便所のにおいもズボンにつきそうでイヤだった。
それにときどきマンガでぼくぐらいの小学生の男の子がズボンとを半分下して和式便器にしゃがんでいる場面を見るけど、自分がその通りにするのは想像するだけで一番恥ずかしい格好だった。下半身が中途半端にズボンに隠れていておしりだけが一部出ている方が、ぜんぶ下半身丸出しのふりちんよりエッチでしかも汚いような気がした。


特に、3年生のころ、あのぎょう虫検査以上にキラいだった赤痢検査(便を採取するためにおしりの穴にガラス棒を突っ込まれる)の前の日の体育の時間に特別に体育館での授業を取りやめて視聴覚室で見せられた赤痢予防の映画が気になって、ますますぼくは全部脱いでからでないとできなくなってしまった。
その映画は白黒で、画面にときどき雨が降り、語り口調も「何々であります」で、音もときどき割れてザザッという雑音が入るという、時々テレビに出てくる戦争中のニュース映像みたいに古臭くて不気味なものだった。
まず、その映画には赤痢に感染して、下痢をしているのかおなかを抱えながら東京らしい街の中を急ぎ足で歩いている背広を着たおじさんが出てきた。おじさんは公衆トイレを見つけると急いで個室にかけこんだ。
しばらく個室のドアが閉まったあと、そのおじさんは個室から出たきたのだが、なんとそのとき手を洗わずにそのまま街中に出て行ってしまった。
続いて「この男は手を洗わずに町へ出て行くのであります」とナレーションが流れたときぼくたちの間からは「フケツ!」「ウンコしたらちゃんと手を洗え よ!」と失笑に近い笑いが起こったけど「この男の手には便所で使ったちり紙を通して排泄された赤痢菌がついているのであります」というナレーションが流れ たときは、もうみんな黙っていた。
そして、ドアのノブや電車のつり革など握ったものに赤痢菌を残していく様子をしつこくカメラが追いかけていくのだ。その男が何かにさわるたびに「あっ、電車の吊り革に赤痢菌がついた」とか「あっ、ドアのノブが赤痢菌がついた」という具合に声を低めたぼそっとしたナレーションが入るたびに、そんなのに触るだけで赤痢菌に感染するのかと思うとぼくは背筋がぞっとした。しかも、そのおじさんはその後も何べんもトイレに駆け込んだ後、街中で倒れて病院に担ぎ込まれるというオチがついた。それを見てぼくはやはり全部脱がないとうんちはできないと強く思った。

考えてみれば、直接半下しでうんちすると、手を洗わずにおしりをふいたそのままの手でズボンやパンツを上げてベルトをしめることになるわけで、そのとき紙を通して手にしみてきたうんちやばい菌がズボンに付くと思うと、とてもイヤだった。やはり全部脱いでうんちして、おしりを拭いた手を洗ったあとズボンとパンツをはいたほうが清潔なんだ。

そして、ぼくはベルトを取ろうとズボンに手をかけようとした。

でも、ぼくは思いとどまった。脱げなかった。学校は家と違っておしりを丸出しにするようなエッチなこ とをするところではなかった。それにもしここで脱いで入ったら、大変なことになることはすぐに想像がついた。家のようにドアの外に脱ぎ捨てたズボンとパン ツが誰かに見つかったら、お決まりのドアの外からのぞかれたり冷やかされたりだけで済みそうももなかった。脱いであるズボンとパンツから、ふりちん姿で出 てくるぼくの姿を想像し、その姿を冷やかそうとするクラス中の男子たちが総出で個室のドアが開くのを待つことになるだろう。いや、それどころかふりちんの ぼくの前でズボンとパンツを持って走り回るとか、どこかに隠すとか(そういういたずらをぼくは幼稚園の頃やった)彼らはやりかねない。やはり学校では半下ろしでするしかないのかな。でも何だか汚しそうだしあの格好も恥ずかしいな。

しかも前にある時計を見たら、休み時間はあと2分しかなかった。これから仮にズボンとパンツを脱いでうんちして、終わったらはくというようなことをやっていたら、次の3限にはもう間に合いそうもなかった。そんなことを考えながら便器を見ていたとき、ぼくはその便器の後ろの水の流れる穴の付近に誰かがうんちしたあと流しきれないで残ってしまった小さな汚れを見つけた。この休み時間には誰も個室に入らなかったし、その前の休み時間も確かにこの汚れはなかった。きっと、2限の授業中に「先生、おしっこ!」と言って教室を抜け出して、本当はうんちした子の残していったものだろう。

 

入学以来、いつの間にかこんなふうにぼくは休み時間に「男子児童便所」におしっこに行くたびに個室の方をさりげなく観察する習慣ができていた。それは、その休み時間の前の授業中に誰かがその個室でこっそりとウンコマンになったアトを探すためだった。

入学してはじめの頃は誰がその個室を使うんだろうなと気にかけながら、何気なく見ていただけだけど、やがてトイレットペーパーの切り方が前の休み時間と違ったり、だんだん減っていることに気付いた。先生が授業中にトイレにいくわけがないので、どこかのクラスの子がウンコマンになったアトであることは確実だった。

そうしたアトを何度か目撃するうちに、ぼくは自分が教室で教科書を読んだり字を書いたり計算をしている間に、この授業中の「男子児童便所」で誰か知らない子がウンコマンになっていることを確信した。ぼくはこの個室に残したアトを探す遊びをひそかに「ウンコマンはっけんごっこ」と名付け、自分一人の秘密の遊びとして楽んだ。
ときどき確かに流し忘れのうんちは見つかることがあったが、ぼくの「ウンコマンはっけんごっこ」はそんなクラス中、いや学年中の男子が集まってくるような派手なものばかりでなく、もっと細かな「ウンコマン」が出現した証拠もまたぼくのひそかなターゲットだった。トイレットペーパーの減り具合やそれを切った跡だけでなく、残っているニオイとか流し損ねて便器についたままになっているヨゴレとか、それらの前の休み時間との違いはみんな「ウンコマンはっけんごっこ」のターゲットとしてぼくは見逃さなかった。

これらは間違いなく授業中の時間の「男子児童便所」にウンコマンが現れた証拠だった。休み時間に個室のベージュのドアが閉まっているは見ないのに、授業中のウンコマンの証拠は不思議なことに本当によく見つかった。みんないつもは朝学校出るときにうんちをすませているよ、学校ではしないよ、という顔をしているけど、本当はしているんだ!

だからぼくは授業中時々いた「先生、おしっこ!」と言って席を立つ子がいたら必ず耳をすました。授業中、教室を出るとしたらそれが唯一の方法だった。その後、たいてい「男子児童便所」に急いでいることが分かる廊下をパタパタと走る足音が聞こえるけど、足音が止まりバタンとあの個室のベージュのドアがしまる音が聞こえたらウンコマン発見!だった。そんな子は決まって帰りは「ぼくはおしっこだよ」という顔をして戻ってきて、先生に「トイレに行ってきました」と報告すると、何もなかったように授業を聞いていた。クラスのみんなも気にする様子はなかった。

でも、ぼくだけは知っていた。その子は本当はぼくたちが授業を受けている間に学校はしないうんちをおしっこというウソをついてまでするヒキョーでズルいウンコマンなんだ。しかもその子はうんちが出たばかりのおしりを平気でみんなの学校の椅子に乗せて授業を受けているんだ、汚ねーな!

 うちのクラスでも一年生の頃から同じクラスだったゆきお君がそんなヒキョーなウンコマンのひとりだった。かれはゆきお君へのウンココールのときも率先して叫んだし、それにぼく以上の「ウンコマンはっけんごっこ」の名人だった。昼休みクラスの誰も気づかないうちに「ウンコマン」を発見したことを得意そうに5限目の始業時にクラスの子たちに報告してまわっていた。

そんなゆきお君は算数の授業中、突然立ち上がり「先生、おしっこ」と堂々と手を上げて言った。「行ってらっしゃい」と先生も何気なく答えた。そして彼は教室を出て行った。
その時は授業中立ち上がっておしっこに行くというのも珍しくないので、クラスの男子たちは彼が「あーっ、休み時間にトイレに行かなかったから今頃ションベンしたくなったんだな」ぐらいのノリであまり気にしてい る様子は見えなかった。

でも、教室の出入り口に近い方だったぼくの席からは出ていってから廊下から聞こえてきた足音はどこか普通でなく急いでいて誰もいない廊下に響くのが聞こえた。ぼくはもしやと思って授業そっちのけで足音に耳をすました。そして、教室のすぐ近くの西側の「男子児童便所」あたりで止まったかと思うと、バタンと乱暴に個室のドアを閉める音が聞こえた。
その音はいくら乱暴に閉めても、距離の関係で入口近くのこの席ぐらいしか聞こえそうもない小さな音だったのでクラスの子たちに聞こえた様子はなかったけど、ぼくの耳にはウンコマンになったというそのときの彼の一番隠したい秘密がバレバレだった。ぼくはゆきお君が今ごろ個室の中でおしりを出してしゃがんでいるんだろうなと想像しながら「ああ、うんちだったんだ」と一人ほくそ笑んだ。
それからぼく以外のクラスの子たちがゆきお君がウンコマンになったことをに気づき始めたのはかなり後のことだった。西側の「男子児童便所」に行ったはずなのに戻って来なかった。授業中にかかわらず次第に教室はざわざわしだしたんだ。
「ゆきお君、もどってこないよ、心配ね」と気遣って女子の一人が言うと。
「ゆきお、アイツ、きっとうんこしているんだろう」男子の一人があけすけに言った。ぼくはそんなふうなクラスの思い思いのおしゃべりの中でこっそり西側の「男子児童便所」の方に耳をすました。するとようやく長いうんちが終わってゆきお君が水を流しドアをあけてウンコマンになって教室に戻ってくる一部始終が聞こえた。だんだんゆきお君の足音が大きくなって彼が4年2組に近づいてきているのがぼくにもわかった。音が大きくなるたびにぼくの胸のドキドキはより強くなっていった。
この教室の騒ぎの中で先生もとうとう「こら、静かにしなさい!」と先生は叫んだ。「先生も心配だから見てきます、皆さんは自習していてください」と言って先生が教室を出ようとしていた。その時、後ろの戸が開いてゆきお君が戻ってきた。ぼくは思わず先生のところに向かうウンコマンになったゆきお君の全身を見回した。特に気になったのが彼の黒い半ズボンのおしりの部分だった。ついさっきこのおしりの割れ目からうんちが出ていたのか。そう思うとぼくはコーフンしてちんちんが少し固くなった。彼もぼくのそんなそんな視線れに気づいたのかぼくから目をそらして伏せた。そしてぼくの脇を通るときうんちのにおいがした

彼はぼくの脇を通ってそっと先生のところにきて「先生戻ってきました」と報告した。「ゆきお君、こんなに長くどこに行っていたの」と先生が聞くと「おしっこ」と一言つぶやいて席に戻った。
先生はそれ以上なにも聞かなかったが、彼がウソをついていることは、もうぼくだけでなくクラスの子たちにも公然の秘密だった。隣同士顔を見合わせて笑っている子もけっこういた。それはただ時間が長かっただけでなく、ゆきお君から漂ってくるうんちの臭いのにおいに気づいたクラスの子がけっこういたようだった。家は汲み取り式のトイレだったから、長い時間入っていたときや便槽にたまってきたとき服に匂いがつくのは当たり前だったけど、学校のような水洗トイレでも服ににおいがつくことがあることをそのときぼくは初めて知った。
実際、そのすぐ後の休み時間に「男子児童便所」におしっこに行くと、彼の入ったと思われる個室は、水が流してあってもまだ臭くて、ぼく以外にも何人かのクラスの男子が「臭せえー、ここでゆきおがクソしていたのか」と見物に来ていた。よほど大量のうんちをしたのだろう。そしてクラスに戻ると例によってゆきお君はクラスの男子に「ほんとは授業中ウンコしてきたんだろう、ゆきお」と追求されていた。
ゆきお君は「おしっこだよ!」と必死に反論したけど「ずいぶん長かったし、それに教室に入ってきたときウンコのにおいがしたぜ」と言われてゆきお君は返 す言葉もなかった。しまいにはゆきお君は泣きそうな顔で「あのときはおしっこだけのつもりだったんだよ、でも便所に行ったらしたくなって・・・」と必死 に言い訳にならない言い訳をしたが、結局彼のあだ名は三週間「ウンコマン」になった。

 ゆきお君のときは結局みんなにバレたけど、そんなウンコマンの秘密を、入学以来ウンコマンになったことのないぼくだけが独り占めする「ウンコマンはっけんごっこ」はどこか手の中のアリとかカエルのような小さな生き物を指先でつついて楽しむような残酷な楽しみだった。

そして、ぼくはその子がウンコマンになってそれらのアトを個室に残している姿を具体的に想像して一人コーフンした。もちろんそのときの格好は一番恥ずかしいあのズボン半おろしでしゃがんでいる姿だ。

でも、今度は、ぼく自身がヒキョーでずるくて悪いウンコマンになる番がやってきた。それだけでもすごく屈辱的だった。でも仕方なくぼくはサイアクのジタイを避けるために自分のウンコマン作戦を立てた。とりあえず、ぼくはこのまま個室に入らずに3限目の国語の授業に出るんだ。そして授業の途中にゆきお君のように「おしっこ」などとウソをついてこっそりと教室を抜け出してトイレに行くんだ。

授業中で誰も見ていないからといって学校でうんちすればウンコマンはウンコマンだし、服についた臭いでバレるかもしれないけど、クラスの子たちがやってきてベージュのドアの下の隙間からのぞかれるという最悪の事態だけは避けることができそうだった。しかも授業中だから誰も見ていないはずだから、こっそりズボンとパンツを脱いではいれるかもしれない。

まだ3時限目の始業のチャイムは休み時間は終わってなかったので、ぼくはもう一度小便器のところに戻っておしっこをした。ちょっぴり出てほんの少し楽になったけど、ほとんどは出なくてたまっている感じでとても終業時どころか、次の休み時間までもガマンできそうもなかった。ぼくは小便器の前を離れると手を洗った。洗っている最中にチャイムがなった。それはぼくにとってとても長くなりそうな時間の始まりを告げるチャイムだった。ぼくは大急ぎで教室に戻った

 

ぼくはいつものように自分の席に腰を下ろすると少しほっとした。前の休み時間に個室に入らなかったから、まだ、自分の席にこうして座っているぼくはウンコマンでなくこの4年2組の普通の小学生だった。でも、入学以来続いてきた普通の小学生の時間はお腹の中のおしっこやうんちのせいでもうそんなに残されていなかった。授業中いつ誰にも気づかれないように教室を抜け出すことができるんだろうが、抜け出せなかったら、ぼくのおなかの中のおしっことうんちは・・・。

そして、先生がやってきて「きりつ、れい」をすると今も続いている3限目の授業が始まったんだ。

 

よしお君と昌子ちゃんの議論は相変わらず続いていた。二人の言い争いはいつのまにかジョンやキャサリンとは何の関係もない学校の掃除当番の話になってい た。昌子ちゃんは掃除中男子がふざけるのを批判したのに対して、よしお君は負けじと女子が掃除中サボっておしゃべりしていると言い返した。

ぼくはいつ席を立って先生に「先生、トイレ」と告げるかということと、そのあと自分が入り損ねた個室を前にどう自分がズボンとパンツを脱ぐかばかり考えていた。

ぼくは幼稚園の頃にお母さんに街のデパートに連れて行ったもらったときのことを思い出していた。デパートの食堂で昼ごはんを食べてあとどうしてもうんちが したくなって、そこのトイレでしたときに、個室の中で全部脱いでそれで無事できたことがあった。家にいるときみたいにドアの前で脱ぐのはちょっとだけど、そのときのようにすれば全部脱ぐのは今もそれでできるような気がした。

そんなぼくに、とてもいつ終わるとも知れないそんな堂々巡りの議論なんか付き合えなかった。それでも、ときどき同じ班の子たちは意見を聞いてくるけど、どっちの立場にもうんうんそうだねと本当に適当に答えるだけだった。もう、ぼくの考えと言葉は今いすに当たっているおしりの穴の中のものに捕まったようにそこから離れなくなってしまったんだ。
そんな黙って一人考えているぼくを見る彼らたちの顔には、普段だったらこういう場では意見をわりとはっきりと言うはずのぼくが、こういう態度をとっていることを歯がゆく感じているのがはっきり出ていた。でも、ごめん。もう、班の子たちはぼくに期待しないで欲しい。ぼくは、ただ、もう少し議論が白熱して、ぼくのことなんか忘れてぼくがこっそり席を立てるようになってほしかった。そうならないと、三年生だった去年、教室で目にしたゆうすけ君の運命がぼくにも訪れるかもしれなかった。今はみんな議論の方に熱中していたので、幸いにもぼくの方に注目が向いてなかったが、それ以外はまったくその時のゆうすけ君と同じことになっていた。
ぼくが授業に今の態度を撮り続けていたらいずれ班の男子たちはぼくの状況に気づくだろう。そして「さっきから黙っているけど、おまえクソしたいんだろう!」とぼくに関心を向け始めるかもしれない。そして、ゆうすけ君のときのようにウンココールが始まったら、もうぼくはハメツだ・・・。
 だから、ぼくは誰も気づかれそうもないタイミングで一刻も早く行きたかった。でも、もらしたら、ゆうすけ君のように少なくとも3ヶ月は「うんこもらし」と呼ばれることになる。いやもしかすると三ヶ月どころか一年生の入学式でうんちをもらしてから三年過ぎても未だにそのことでからかわれる、たもつ君の例もあるし。

そのときお、二人の白熱ぶりを見かねた先生がやってきて「これは国語の授業なのよ、けんかじゃないのよ! もっと落ち着いて話し合いなさい!」とよしお君と昌子ちゃんを注意した。二人は一瞬黙った。
でも、昌子ちゃんは「よしお君のおかげで先生に怒られたわ」というとよしお君もすぐに「そういう昌子ちゃんだって」やり返した。手を叩きながら先生も「ほら、もう、やめなさい」と言った。
でも二人はやめなかった。それどころか他の子もふたたび二人に加勢し始めた。先生はもうお手上げという感じだった。
 ぼくも彼らの声がおしりの穴まで響きそうなくらいぎりぎりだったが、この混乱ぶりはクラスの子に気づかれないでトイレに行く絶好のチャンスだった。
 この様子だとゆきお君ぐらい時間がかかっても誰も気にしないだろう。
 ぼくは音を立てないように、できるだけゆっくりといすを動かして立ち上がり、その白熱ぶりにさじを投げてしまって呆然と見ているだけになってしまった先生にできるだけ近づいた。そして、脇からささやくようにぼくは「先生!」と言った。先生は急に気を取り戻したみたいにガクッと少し首を動かして「はい」と先生はぼくに向いた。
 ぼくは一呼吸入れてあくまでもおしっこのためにトイレで行くんだと自分自身に言い聞かせた上で「トイレに行きたいです、おしっこです」と先生にしか聞こえないように、できるだけ耳元に近づいてから、念入りに低めの声で言った。ぼくはできれば先生にもこれからうんちに行くことを気づかれたくなかった。うっかり先生が不注意にも「お腹痛そうね」とか言ったらみんなの注目を受けるし、これから学校でうんちすることは先生にも絶対知られたくなかった秘密だった。
でも、そう言い終わると、言葉の上ではこれからトイレに行くという本当のことを言ったはなずなのに、そういう秘密を隠していることで何かウソをついたよう な罪悪感でぼくの胸はドキドキした。そして何か結局うんちすることを告白してしまったような恥ずかしさで顔がすこし赤くなった。
すると先生はぼくの顔をじっと見た。ぼくは、まずい、ぼくが隠している本当の秘密が気づかれたかなと思った。でも、先生は「あっ顔が赤いようね、お熱でもあるのかしら」とぼくの額に手を当てた。もし保健室で休んできなさいと言われたらどうしよう、学校のきまりでは授業中に保健室に行くときは一人では行かずクラスの保険係がついていく決まりだった。ぼくは一人で教室を出たかったのに、保健委員がずっとぼくについてくる。もうこの教室の下の一階の保健室まで間に合いそうもないのに・・・。
でも先生は「お熱はないようね、●●君しょうがないわね、休み時間にトイレに行っておかなければダメでしょう、行ってきなさい」と言っただけでぼくを行かせてくれた。
よかった。先生はぼくがただのおしっこでトイレに行くと思ってくれたようだった。「お腹が痛いの?」と聞かれずに済んだ。さらに幸いなことに相変わらず議論に夢中なクラスの子たちは誰もぼくには興味はなく、振り向きもしなかった。
ぼくも先生の許可を得ても相変わらず胸がドキドキしていたので、先生に「はい、行ってきます」と言うと後ろを振り返らずにできるだけ気づかれないようにこっそりと教室の後ろの入り口に向かい、戸を開けた。開けるとき「きけん! この先は行ってはいけません」と書かれた看板の向こう側に行こうとするジョンとキャサリンのことを思い出した。この二人が看板に書かれたきまりを破るように、ぼくもウンコマンになろうとしている。しかも先生におしっこをしたいとウソをついている・・・。

そっと戸を開けて、外に出ると、そこはもう廊下だった。後ろを振り返らずに廊下のぼくはそっと4年2組の教室の戸を閉めた。それまでぼくの耳につきまとってきた先生やクラスの子たちの声がまわりの教室と変わらないくらい静かになった。もう、これでぼくは4年2組にいなくなったんだ。声だけでなく登校から終わりの会までずっと一緒にいて、いつも何かしら、ぼく自身を見ている同じクラスの子たちの視線ももうそこにはなかった。

 2階の廊下は東の行き止まりが第1音楽室、西の行き止まりは第2音楽室だけど、授業中だからついさっきの休み時間と変わって、どちらを向いても廊下は児童はもちろん先生も歩いていなかった。教室から聞こえる授業の先生の声さえ聞こえなければ本当に一人の世界になったみたいだった。

 廊下は人影の代わりに校舎のはるか向こうまで続いていた教室と反対側の北向きのアルミサッシを通して差し込んでくる日差しを白い塗装や御影石や床のリノリューム板が反射して清潔そうな白い光を放っていた。

 しかもアルミサッシの窓は真下のグランドに向かってすべて開け放たれていて、初夏の真っ青に晴れ渡った空が見えた。開け放たれた窓からは授業を受ける子の掛け声や体育の授業の先生の声ともに外から結構強い風が吹き込んできていた。吹き込んでくる風は教室の中の論争で飛ばされたツバでよどんだ空気とは正反対に爽やかで、ぼくのほっぺたをなぜると気持ちがよかった。

 あまりに気持ちよくて、ここは森じゃないけど、ジョンがキャサリンを誘って行こうとした、「森なのに、木と木の間を吹き抜ける風が涼し」て気持ちよい場所」や「誰もいなくても誰も知らないすてきな場所」という「秘密の場所」というのはこういうところじゃないかとふと思った。こうしてぼくは机を合わせていたクラスの子たちから離れてたった一人になれたことにほっとした。ぼくはやっとクラスの一員でなくてただのうんちしたい子どもになれた。これでぼくが教室からクラスの子たちから気づかれずに脱出するウンコマン作戦その1は成功のうちに終わったんだ。

 でも、ウンコマン作戦その1が成功したからといって、ぼくはいつまもでここにとどまってはいることは、もうぼくのお腹の中のおしっこもうんちも許さなかった。ぼくには次のウンコマン作戦その2が待っていた。それはいつも休み時間に行っている西側の「男子児童便所」じゃなくて反対方向の後者配膳室の隣の東側の方へ行くことだった。

 西側の「男子児童便所」はぼくの4年3組の教室から3組を一つ置くだけの隣の隣、すぐ近くにあった。学校のきまりでは使うトイレは学年ごとに決まっていて、ぼくたち4年生はできるだけこの西側の「男子児童便所」を使うことになっていた。ぞれにぼくのお腹は学校のきまりと関係なくもうできるだけ近くのほうへ行きたがっていた。

 でも、ぼくのウンコマン作戦その2で行くはずの東側の「男子児童便所」はもっと遠くのこの廊下の向こうにあった。東側の隣の4年1組だけでなくてその先の3年生の3つのクラスを抜けて、この校舎2階のはずれの方だった。もうそこから先は給食の配膳室と本当の行き止まりである第一音楽室しかなかった。

 そんな遠くへ行きたかったのは、ぼくはガマンの時間が長くなってもできるだけクラスから離れたところでうんちしたかったんだ。何か聞こえるかもしれないし、ものすごくいっぱいうんちが出て休み時間になってクラスの子が行ったときニオイが残っているかもしれなかった。それにそんな一教室しかあいだがあいていないところのトイレでしゃがむなんて、4年2組の子たちが座っている机のすぐそばでうんちするようでイヤだった。

 そしてぼくはウンコマン作戦その2を実行するために第一音楽室の方を見た。2階の廊下の白い輝きは東側の階段の手すりに変わるあたりで終わって、そこから廊下は日陰になって薄暗くなっているのが見えた。一番の突き当りに第一音楽室があって、その少し手前の左側に配膳室があった。ここからは引っ込んで見えないけど、その配膳室と同じくここから手すりが見える階段の間に東側の「男子児童便所」があった。そこで右に曲がればもうぼくはウンコマンだった。

 そう思ったとき、廊下の日差しと日陰の境界あたりで同じように授業を抜け出して今のぼくみたいに一瞬黒い半ズボンの中のもううんちでいっぱいの揺れるおしりを抱えながらそこへ駈け込んでいく男の子の姿を見たような気がした。ぼくもぎりぎりという緊急時なのに、そんな走っていく自分と他の子たちを姿を想像して妙にコーフンした。でも、それはまぼろしだった。

 そして、ぼくはその「男子児童便所」に向かって歩き出した。最初、ぼくはできるだけ足音も立てないようにそっと足を踏み出して歩き始めたつもりだけど、東側の「男子児童便所」は今のぼくには思った以上遠くて、そんなふうに歩くと一歩踏み出すごとにだんだん、うんちとおしっこが同時に押してくるようなお腹の痛みが増してきた。うんちを抑えようとしておしりの穴をしめようとすると逆流してい来るむかつくような感じがした。お腹もときどきぎゅるぎゅると不気味な音をたてた。

 もうぼくは早く着きたいという思いだけが強くなってバタバタと足音がたつのも構わないまま、完全に走っていた。そんなぼくに胸で揺れる名札はすごく邪魔だった。そこに書かれた「4年2組」と名前は誰もいない廊下で一人になったはずのぼくをクラスの子がしつこく追いかけて来るみたいだった。

 でも、ようやくぼくの東側の階段が見えた。階段のすぐ隣がぼくの目指している「男子児童便所」だった。そのとき階段の脇に置かれた背丈くらいありそうな大きな鏡に胸の名札とともにうつったぼくの前かがみ気味でおなかまで手に当てていて、完全にうんちしようとトイレに急ぐ小学生だった、その姿の通りぼくはそのとき出てしまいそうだった。鏡の脇のゴミ箱が目に入ったとき。もう間に合わないなら、もらすよりましだし、誰も見ていないからあのゴミ箱の中にうんちして、しらんぷりして教室に戻れよという考えまで一瞬頭の中によぎった。ちょっと前に掃除の最中にそのゴミ箱でうんちがしてあるのが見つかってその階の3年4年の子たちのほどんどが見物にくる大騒ぎになったことがあったんだ。結局犯人はわからなかったけど、そのときはなぜトイレが近いのにうんこしたんだと腹がたった。

 でも、今は、その子も本当はぎりぎりまで我慢してトイレにまでたどりつけなかったんだと少し同情した。

 

でも、ぼくは何とか階段の前を無事通過して東側の「男子児童便所」にたどり着いた。これでぼくのウンコマン作戦その2も成功に終わった。

 ここは教室の近くのそれと違って、白い引き戸ががいつもしまっていた。入り口の戸をゆっくりあけると、ぼくの目の前が急に明るくなって青空やグランドやすぐ近くの体育館がが飛び込んできた。すりガラスの窓だった西側の「男子児童便所」と違って、ここは北向きのせいか直接日光が透明なガラスがアルミサッシに取り付けられていて、外の風景がよく見えた。しかも、サッシは廊下のそれと同じように開け放たれていて、外からは下のグランドで体育の授業を受ける1~2年生と先生の声がはっきりと聞こえてきた。ちょうどアルミサッシの真下のグランドの一角がマンホールみたいなものがいくつかある浄化槽で、この「男子児童便所」を含め、ぼくたちがした学校中のおしっこやうんちがそこに流れ込む仕掛けだった。マンホールの中には中が見えるものあって、うんちが見えるかなとぼくはときどきのぞくけど水やおしっこが流れているだけでうんちは見たことがなかった。

 そのガラスのアルミサッシの両脇の壁の一面は西側の「男子児童便所」と同じように真っ白いタイルが貼り付けられ、その左側に出口に面したのを除き、間についたてももなく小便器が3つ等間隔で取り付けられていた。床は一面灰色のタイルが敷き詰められいた。北向きで日差しは直接差し込まないので、壁や小便器に日陰になっていて灰色のタイルだけが日に照らされていた。もちろん、そこには誰もいなかった。

 中に入り開けた戸を閉めると、ぼくは入口のすぐ右わきを見た。そこだけタイルの壁が引っ込んでいる一角があって、それがこれからぼくが入る個室だった。窓から入る北向きの光はそのちょっと奥で途切れていて、そこは本当に薄暗かった。

 ぼくにはウンコマン作戦その3があった。それはこの個室の前で家と同じようにここでズボンとパンツを全部脱いではいることだった。ここは誰もいない今ならば個室の前に全部脱いで入っても誰にも見つからないし、そのほうが素早くできそうな気が一瞬した。でも、結局ぼくはそんなガラス窓が全開になっている前にふりちんになっておしりを出す勇気はなかった。でも、日の差し込まない薄暗いこの「男子児童便所」は個室はデパートのトイレなんかよりずっと狭くて、さっき立てたウンコマン作戦のようにこの中で脱いだとしても、ズボンやパンツを置く余裕もなかった。脱いで便器の脇に置いたら、しゃがむとき踏んだり、うんちやおしっこが飛び散って汚しそうだった。結局ぼくはズボンやパンツを膝まで下すあの半下しスタイルでうんちするしかなかった。

 半下しを覚悟したぼくは、これからその上にしゃがむことになる灰色のタイルに埋め込まれていた便器を思わず見入ってしまった。薄暗い個室の中の便器は朝掃除したばかりらしくてまだ何のヨゴレもなく、トイレットペーパーにちぎられた跡もなかった。

 その便器も真っ白の陶器製だけど、前の休み時間に見た東側の「男子児童便所」の便器と違って、窓からの光が差し込んでこないのでキラキラとはしていなかったで。でも平く飾り気のない皿のような便器の底の部分は、まるでぼくの好きだった理科準備室にビーカーやフラスコと並んでいるほうろう引きのパッドや乳鉢の底のように、上や下の隙間から漏れてくる光を反射してほんのり輝きを放っていた。水の少し溜まった部分は鏡のようにのぞき込んでいるぼくの姿みたいなものも映っていた。こんな真っ白くてきれいな学校のものを、これからわざわざ汚そうとしている自分に少し怒りのようなものを感じた。

 でも、そのとき突然おしっこもうんちも最大限にぼくの両方の穴に迫ってきた。「もれるっ!」思わずぼくは言いそうになった。ぼくは個室に入るしかなかった。そして白い便器をまたいで、ドアを閉めるために便器の向こう側に立って引いた。ドアを閉めているぼくはもう戻れなかった。個室に足を踏み入れる前のぼくならば、この瞬間誰かがおしっこにここに入ってきても、おしっこするふりをして小便器の前に立つことでごまかすことも可能だったかもしれない(仮にそんなことをしたら小便器の前でもうもれちゃいそうだったけど)。でも、ベージュのドア閉めるところが誰かに見つかったら、女子ならともかくオトコのぼくならば確実にその場でウンコマン認定だった。3年生が使う東側の「男子児童便所」で4年生がウンコマンになったというウワサは2階全体にながれるかも知れない。いや、それだけで済めばいい。その場で閉めようとするドアに手をかけて、こじ開けて中に入ってくるいたずらをされるかもしれなかった(ぼくならやった)。そうなったら、ぼくは今の状態ならガマンできなくてその子の目の前でうんちだ。

 そう思うと、ぼくの胸はさっき教室から出る際に引き戸を開ける時以上にドキドキした。もちろん。足音は聞こえなくて、だれも入ってくる気配もなかったけど。まるで体育館での全校朝礼で校長先生に突然呼ばれて、ステージに立ってみんなの前で何か発表することになったようなドキドキ感がぼくの胸でしていた。

 全校朝礼の体育館のステージの前と違って目の前には誰もいなかったけど、その代わりに今日の2時限目のお腹の痛くなる前までのもう一人の「ぼく」が個室のすぐ前に立っているような気がした。その「ぼく」は入学して以来、休み時間におしっこに行くたびに好奇心たっぷりにこの個室の中というステージの上でウンコマン発表会がはじまるのを待っていたが、結局ステージに立って発表するのはぼく自身だったのが恥ずかしかった。

 そして、ドアはゆっくりと閉めたつもりだけど、結局バタンという音がして真っ暗になり、ぼくは取っ手の鍵をかけた。その時、まだドアの前にもう一人のぼくがいて、ベージュのドアが閉まっているのをじっと見ていて、ぼくは思わずコーフンした。緊張がゆるんだせいかおならもぷうっと出た。臭かったけど、少しラクになった感じがした。先生が学校でおならがしたくなったときは個室に入りなさいと言っていたのをぼくは思い出した。学校でおしっこしている最中に間違っておならをしてしまったことがあったけど、そのときは周りの子たちにからかわれて恥ずかしかった。でも、ここは本当に個室の中で、外にも誰もいないからおならの音が響いた後に近くから聞こえてくるのは、この個室の前のモップを洗う水道から時々落ちるポタッという水滴の音だけだった。

 ぼくは体勢を変えて便器にしゃがむために便器をまたいで腰のベルトをゆるめたベルトをゆるめた。暗い個室の中は足元の方にある銀色の真鍮製のホルダーにトイレットペーパーだけが雪のように真っ白に見えた。そしてぼくはホックをはずしチャックを下してから、ズボンとパンツを下しながらゆっくりとしゃがんだ。しゃがむときに気になったのは脇のドアと蝶番の間のわずかな隙間とドアの下の方の大きな隙間から漏れてくる光だった。ここも下からのぞいたら確実におしりからうんちが出てくるのが丸見えだった。

 

 ぼくも実際に3年生のとき一人だけ先生じゃなくて同じ学年の子をのぞいたことがあって、そのときは本当に見えたんだ。

給食当番で体育館に遊びに行くのが遅れたぼくは「男子児童便所」におしっこするために入ったらドアが閉まっているので目に入ったので、まず、うんち姿の全身が見えないかとこっそり蝶番の隙間からのぞいてみた。でも、その子が立っているらしくて黒いものが見えるけど、隙間も細くて中も薄暗くそれ以外は何も見えなかった。

本当は全身が見たかったけど仕方ないのでおしりだけでも見ようとぼくはしゃがんでベージュのドアの下の隙間がそっとのぞきこんだ。すると、かかとの部分に「3年1組■■■■」と書かれたよそのクラスの子の水色の運動靴とラインが入った白い靴下の足元は見えた。この中には先生じゃなくて同じ3年生の子が入っているんだと思うとそれだけで胸がドキドキした。

でも、その子はしゃがんでいないらしくうんちどころかおしりも見えなかった。今から考えるとその子はうんちする決意がつかなかったと思うけど「あれ、もう終わっておしりを拭いたりズボンを上げたりしているのかな」とぼくはがっかりした。やっぱり学校でうんちする子なんかいなかったんだ、とぼくはあきらめかけた。それにこのままドアが開くとキケンだった。それでも気になってぼくはその場を離れられなくてベージュのドアの下のぞき続けた。

でも、しばらくしてその子もようやく意を決したズボンを下したらしく、ズボンのすそが足元にかかるのが見えると、その子のしゃがむおしりがぼくの視界にあらわれた。まさか学校でぼくの目の前でおしり丸出しにする子なんかいないかと思っていたけど、その子のおしりは本当に薄暗い個室の中に灰色のタイルが敷き詰められた床に埋め込まれた白い便器に吸い込まれるようにぼくの目の前に降りてきた。ぼくの見ているところでおしりを出すなんでバカみたいだと思ったけど、薄暗い個室の中で冷たい光を放つ固い陶器の便器の上にやわらかいお尻がぽっかりと浮かんでいて、そのすぐ近くに今にも踏ん張ろうとしている青い運動靴が見える光景がはすごくエッチだった。ぼくはコーフンしながら次に起こることをじっと待っていた・・・。

 

完全にぼくが便器の上に腰を下ろすと、ひざまでズボンやパンツがかかっているのに、窓から吹き込んでくるらしい風がぼくのおしりをなぜた。今、この「男子児童便所」に誰かが入ってきて、あの下の隙間からのぞくと、間違いなくぼくのおしりもあのときの3年1組の子のように丸見えのはずだった。いつもならば、他の子に見せたら絶対恥ずかしいおしりだけが丸出しになっている感覚は、ぼくを不安にさせて仕方がなかった。

でも、ぼくはうんちするまでもうここから出られそうもなかった。ぼくに今残されているウンコマン作戦は今うんちとおしっこ以外できるのは誰か来ないのを祈るのと、ウンコマンなったアトを便器に残さない努力だけだった。休み時間になるとこの東側の「男子児童便所」にやってくる三年生たちにほんの少しでもぼくのアトが残ってさらしものになるのはイヤだった。きっと彼らはそれを見てぼくのアトを残しているところを想像して楽しむだろうから。ぼくはしゃがむと便器の後ろのふちにつかないようにできるだけ前に進んだ。気になって後ろを振り向くとぼくの真っ白いおしりはまるで何かの機械みたいにぴったりと白い便器の上にはまっていた。

前を向くとぼくの目の前はベージュ色の壁と真鍮のトイレットペーパーホルダと水を流す真鍮のコックだけになった。トイレットペーパーホルダーとコックにはよく見るとしゃがんでいる情けないぼくの姿がうつっていたので、目を背けて下の方を見ると灰色のタイルが敷き詰められた白い便器の金隠しの部分と下ろされたズボンとつま先に「4-2」と大きく書かれた青い運動靴の足元があった。これがこれからウンコマンになるぼくに見えるすべてだった。

でも、ぼくの耳には誰かが入って来るのが不安で、まるで「男子児童便所」全体がぼくの耳になってしまったかのように神経を集中させていた。すると、この壁やドアの向こうからたくさんの音が聞こえてきた。

外のグラウンドでリレーの練習をする声。

先生が授業中ひとり話す声。

第一音楽室でピアノに合わせて合唱する声

聞こえないけど、ぼくのクラスでも相変わらず議論は続いているだろう。

それらの声の元はその時立っていたり走っていたり机のいすに座っていたりして、便器にしゃがんでいるぼくの頭よりはるか高い場所から向かって降ってくる感じだった。その声の元の高い場所が本当に学校というところで、みんながそこでいて、走っていたり歌っていたり授業を受けている。ぼくもついさっきまではそこにいた。

でも、今のぼくはそこからいなくなっていた。ぼくのいるところは学校なのに学校でなかった。まず、みんながいない。そして、ベージュ色に塗られた壁とトイレットペーパーと水を流すコックしかそこにない。ぼく自身もおしりを出してしゃがんでいる。しかも、これからみんなの学校を汚すようなすごく汚くて臭いことをしようとしている。ぼくはみんなからはもう見えないこの学校で一番低い場所(二階だけど)に自分一人だけ取り残されているような気がしてさみしかった。

でも、ぼくのまずこれからすることはおしっこだった。いつもなら、ちんちんを見ながら狙いを付けておしっこするはずだった。でも今は下したズボンでちんちんが見えなくて、どこに飛ぶかわからなくて不安だった。しかしこの場で出して、うんちが止まれば、ぼくは学校でうんちしないで教室に戻れるかもしれない。ぼくはそういう祈る気持ちで、なるべくうんちが出ないようにおしりの穴を思い切り閉めながらおそるおそるちんちんの方をゆるめた。すると便器の水のたまっている部分にジョロジョロとすごく勢い悪く落ちていく音がした。でもちんちんが見えない状態でおしっこが出ている感覚はするのはズボンの中におしっこしているみたいでイヤだった。やっぱり家に帰ったらぜんぶ脱いでしよう。

それでも、おしっこが出て少し楽になった気が出て、これで終わったかなと思ったとき、おしっこが突然止まった。ぼくのお腹の中のうんちがおしっこの通る道を押してきたのだ。おしっこが出ないで残っているのはすごく苦しかった。でも、どんなに力を入れても、おしっこだけ出すというのは難しそうだった。おなかもますます痛くなってきたけど、おしっこが出ない苦しさはそれ以上で、これ以上ガマンを続けると、ここで吐いてしまいそうだった。もうおしっこを出すためにもぼくはウンコマンなるしかないことなかった。ぼくは最後のウンコマン作戦としてできるだけ少し前の方に進もうとした。なるべく便器のふちにうんちがつかないようにするためだった。すると、うつむく格好になって便器とタイルと運動靴を履いたつま先しか見えなくなったと思うと、ひざがぼくのおなかを押した。

すると、ぼくの口からは思わず「うっ」という声が漏れて、思わずいきんでしまった。するとすぐに大きなおならが出た。続けて、ぼくのおしりの穴の奥の方がうんちを押し出し始めた。まるで幼稚園の園庭の片すみの水たまりで禁止されていた泥遊びをこっそりしたときみたいに生暖かい泥を握っているような感じがした。そして、その「泥」は握りしめた手からあふれるようにおしりの穴に迫ってきた。それはいくら学校で出してはいけないものでも、ぼくにはもう止めることはできなかった。ここまできたらぼくは「うん」といきんでおなかから押し出すしかなかった。その「泥」がおしりの穴を通り抜けて外に出るとき、あの、入学以来学校では決して感じてはいけないと思っていたあの気持ちいいような恥ずかしいようなエッチな感じを残して、ぼくの体から出ていった。それは本を読むとか字を書くとか計算するとかいった本当に学校ですることとは一番遠い感覚だった。

そして、ぼくの「泥」はまるでおしっこみたいな「ジャー」という音を立てておしりの下の白いお皿に当たった。それは下痢で、ぼくが入学してから初めてぼくの学校の便器を汚した音だった。おまけにヘンな臭いもしてきた。そのとき、この学校でうんちしたウンコマンになった。この東側の「男子児童便所」の中は個室の前のモップを洗う水道の蛇口から落ちる水滴のポタッポタッという音以外は何も聞こえなかったから、誰かがいたわけでものぞかれていたわけでもないけど、便器を汚した以上もうぼくはウンコマンなんだ・・・。

それから、「ブシャッ!ブブブッ!」とおなら混じりの激しい勢いの下痢のうんちがまるで破裂したかのようにおしりの穴から吹き出して、便器を叩きつけた。それと同時に止まっていたおしっこも激しい勢いで出た。そのおしっことうんちがいっぺんにでるキタナい音はグランドから聞こえてくるリレーを練習している声や第一音楽室で歌っている「調子をそろえてクリッククリッククリック」の合唱を汚しているように聞こえて恥ずかしかった。まさか第一音楽室にいるあの子たち、歌っている最中にぼくがうんちしているなんて想像していないだろうな・・・。

でも、ますます大きな音になるのにはかまわずに、ぼくは息を殺して声を出さないように「ううっ」「ううぅ」と必死にいきんだ。でも、なかなか下痢のうんちは終わらなくて、出てきても残っている感じがして、おなかが痛くなってまた出てくるの繰り返しだった。ぼくはウンコマン以下のただうんちを作るだけのウンコキカイ、それもゲリウンコキカイになってしまったみたいでみじめな気がした。

でも、ゲリウンコキカイになったはずのぼくでも、いきむたびに目に入る胸につけた名札が気になって仕方がなかった。名札に書かれた学校名とクラスと名前はまるで「4年2組●●●●は今うんち中 でーす」と大声で叫んでいるようでイヤだった。ぼくはうんち中でも4年2組の子どもであることを逃れられないんだ。だから、ぼくは一刻も早くお腹の中のものを出してしまわなければならなかった。ぐずぐずしていると、4年2組に戻ったときに、のぶお君みたいに「所要時間」でウンコマンになったことがバレてしまう。

それに今この瞬間にも誰かよその子がやってきて今ぼくのうんちしていることろをあのドアの下の隙間からのぞくかもしれかった。ぼくがのぞいたあの3年1組の子のように。

 

3年1組の子はぼくがそこにいるのが気づいているのかおしりをぼくに見せてもなかなかうんちをしなかった。でも、ぼくはその子のおしりをしばらくじっと見ていた。すると、その子は諦めていきみ始めたのか「3-1■■■■」と書かれた学校指定の青い運動靴のつま先が力が入ったように揺れると、茶色い親指の先ほどのものがおしりから顔を出した。その子がウンコマンになった瞬間だった。はじめて他の子がうんちしているのを見るぼくには、こんな茶色いかたまりが真っ白いやわらかそうなおしりから出て来るなんて一瞬信じられなかった。そして「うん」というその子のいきむ声が聞こえて、茶色い小石がいくつもくっついたような塊がにゅっと出てきた。ぼくは下痢だけど、その子のうんちは普通の固いものだった。気が付くとニオイまでしてきた。それを見ているぼくまでその固いうんちがおしりの穴を通過しているようなむずむずするような感じがしてコーフンして、ちんちんまで少しかたくなった。うんちは少しおしりにぶら下がるとちぎれて白い便器の中に吸い込まれていき、「ぽちゃ」という音がした。その子は「はあっ」と息をついた。

その子は大きいのを出したのでぼくはこれで終わった思ったけど、その子は立ち上がったりおしりをふこうとはしなかった。そして、またいきんでいるのか青い運動靴のつま先とか かとの部分が少し震えたかと思ったら、「うん」と声と「プスッ」というおならの音が聞こえて、今度はクリームみたいな柔らかい黄色いうんちが出てきた。固 いのと違ってニオイも強烈で、便器に落ちるときベシャベシャという汚そうな音をたてた。のぞいてるぼくはあまりにも臭くて吐き気が少しした。みんなの学校 でこんな汚いこといいのかとぼくは少し腹が立って「わぁ、きたねー、くせー」と思わず叫んでしまった。すると「見るな!先生にいいつけるぞ!」と初めてそ の子が叫んだ、その声は少し泣きそうだった。それと同時にちんちんからぽたぽたとおしっこが出て来るのが見えた。汚いうんちとはまるで違う透明な水みたい おしっこは恥ずかしくて泣いているその子の涙みたいに見えた。そのとき、ちょうど5限の始業のチャイムが鳴ったので、ぼくは急いで教室に戻った。それから後、ぼくはその3年1組の子が先生に本当に言いつけたらどうし ようと不安だったけど、何もなかった。結局その子は先生に言わなかったんだろう。その気持ちは今ならわかる、ぼくだって今のぞかれても、とても先生に言え ない。それどころかここでうんちしてること自体がクラスの子はもちろん先生にも言えないし気付かれてもいけない秘密なんだ。

 

ぼくの場合は、幸いこの「男子児童便所」に誰も来ない間にぼくのおなかの中のたまっていたものが全部出尽くした。さっきまでのお腹の痛いのも戻してくる感じもウソのようだった。それでも下痢独特の少し残っている感じがしたのでぼくは念のためにいきんでみたが何も出なかった。もう終わったんだ。
最初にここにしゃがんだ時は、ぼくは自分で出した汚いものを見たくなくて、見ないでさっさと流してしまおうと思っていたけど、本当に終わると、どうしても気になったので、拭く前に立ち上がって、下されたズボンやパンツとうなだれるように元気なく垂れ下がるちんちんの間から便器をのぞきこんだ。

そこにはヨーグルトのようなゆるゆるなものが底にたまっていた。幸いにも便器のふちにはあまりついていなかった。でも、いつも汲み取り式の家のトイレでしかうんちしないぼくには、記憶にある限りではこんなに自分のうんちを間近で見たのは初めてだった。しかもそれは学校でのことだった。これが4年2組のぼくのうんち・・・ぼくは思わず名札を見てしまった。それは本当に誰にも言えない秘密だった。でも、普通のうんちでなく下痢だから仕方がなかったと思うとほっとした。においもちょっと酸っぱいにおいがしたけど、固形状のものにくらべてあまりに臭わなかった。そういえば昨日の夜、牛乳をいつもよりたくさん飲んだな。いつも牛乳を配達する牛乳屋さんがサービスに一本多く置いて行ったのを飲んだのがマチガイのもとだった。
そして、ぼくはもう一度しゃがんでから、真鍮のホルダーからトイレットペーパーを引き出して、いつも家で使っている黒ちり紙よよりまっ白で柔らかくて薄くてついたものが手までしみそうなので大目に出してちぎって折りたたんだ。そしてその白いものをおしりを押し当てたとき手に黒ちり紙と違っておしりの穴に触れる感触がはっきりと伝わってきた。拭くときいつも不思議に思うことだけど、どうしてここからうんちが出てくるんだろう。学習図鑑で読んだり理科の時間で習ったように、口から入った食べ物は胃や腸を通って最後にうんちになっておしりの穴から出てくるし、逆に去年受けた赤痢検査みたいにおしりの穴からガラス棒だって入った。でもトイレットペーパーの上からふれるおしりの穴は閉まっていて何か出てきたり入れられる感じじゃなかった。かといって見ることができるわけでもないので、ぼくは試しにトイレットペーパの上からぎゅっと人差し指をおしりの穴に押し込んでみた。指はほんの少しめり込んだだけ入ろうとしなかった、おしりの穴も痛みが混じったもぞもぞとした感触しただけでガラス棒を差し込まれた時みたいにうんちの通る道に入って来る感じはなかった。そして拭いたトイレットペーパを見たら、付いていたものはごくわずかで、もう一度切って拭いたときは何もついていなかった。
そのあと、ぼくはトイレットペーパーをホルダーの切る部分に会わせて、きれいにきり直して便器に捨てた。乱暴に切った跡が残るとアトが残るようでイヤだった。拭いてからパンツとズボンを上げる前に、おもわずおしりを拭いた右手の指先をかいでみた。うんちのにおいかトイレットペーパーのにおいか微妙だった。できれば、ここでおしりを拭いた手でズボンやパンツをさわりたくなくて、半おろしのまま個室を出て手を洗いたかった。でも、そのかっこうを想像するとそういうわけには行かないので、ぼくはその場で思い切ってパンツとズボンを上げてベルトを締めた。ただ、その日は一日中おしりを拭いた手で上げたズボンや締めたベルトにはさわらないようにしようと思った。
そして、ぼくはコックをひねると、うんちは水に洗い流されてあっという間に便器から消え去った。それを確認すると鍵を引いてドアを開けた。薄暗い個室の中にまた明かりが差し込んできた。ぼくは何気なく足元の便器を見ると、薄暗い中でよく見えなかった、茶色いしぶきのぼくのアトが水の出て来る後ろの方に残っていた。ここは3年生が使う「男子児童便所」だけど次の休み時間になると3年生が授業中にここでウンコマンになった子(それはぼく)がいたことを発見するかもしれない。そう思うとすごく恥ずかしかった。でも、もう一回水を流すと誰かに気付かれそうであきらめた。

ぼくはトイレを出ると、手洗い場でまずくんくんと手首のにおいを嗅いだ。臭いがほとんど残っていなかったのでほっとした。家の汲み取り便所だと、特におなかの調子が悪い時や便槽の中のうんちやおしっこがたまってきたときに手首の部分にニオイがよく残るんだ。そしてぼくは手洗い場でふだんは使わないみかん袋に入った黄色の石鹸を使っていつもより少し念入りにおしりをふいたばかりの手を洗った。
ぼくは手を洗いながら鏡の中に映った自分の顔を見ていた。さっきの休み時間遠目で見たときの青ざめた顔と違って、頬が少し赤みがったいつもの健康そうなぼくの顔に戻っていた。しかも、その下に映っている胸の名札にははっきり「4年2組●●●●」とぼくの名前と学校名と学年・組が書かれていた。どう見てもそこに映っているぼくはウンコマンでなく、普通の小学四年生の男の子だった。手を洗い終わるとぼくはそっと音を立てないようにして小走りで教室に向かった。
4年2組の教室に戻る途中、ぼくは国語の授業がどうなっているか心配で仕方がなかった。まだチャイムは鳴っていないから、まだ3限の授業は終わっていないことは間違いなかった。でも、議論はとっくの昔に終わっているかも知れなかった。みんなが静かに先生のまとめを聞いている中、入ってきて、みんなの注目を浴びるぼく・・・。そうなったら、次の休み時間はあのときトイレに行ってたのは本当はウンコしてたんだろうと追求されることは確実だった。

だからぼくは目立たないように4年2組の教室の後ろの方の戸をそっと開けた。4年2組は「男子児童便所」に行く前と同じように議論が続いていて、ぼくを振り返る子はいなかった。よかった。遠くで見ても相変わらずよしお君と昌子ちゃんの議論も続いていることはわかった。ぼくは、黒板脇のいすに腰掛けて議論の成り行きをただ見るばかりになっていた先生にそっと近づいて学校のきまり通りに「トイレに行ってきました」と小声で言った。先生は「そう」とそっけなく答えるだけだった。よかった、ぼくが「男子児童便所」でしてきたことに関心が無くて。
そして机に戻り座ろうとしても、班の誰もぼくが戻ってきたことなど気にする様子も無く、よしお君と昌子ちゃんの議論をなりゆきに夢中だった。聞くと残った給食のおかわりについて言い争っているみたいで、昌子ちゃんが「男子がいつも給食のおかわりを独り占めしてひどい! フルーツポンチぐらい残してよ!」というのに対してよしお君は「言い出さない女子が悪い」と反論していた。つまり議論は何も進展していなかったんだ。ぼく学校の図書館で読んだSF小説に突然時間が止まってみんなの動きも止まっている間に大冒険する子どもの話があったけど、その話みたいにこの教室も時間が止まって、その間ぼく一人だけが東側の「男子児童便所」でウンコマンになっていたみたいだった。ふと気になって、ぼくは教室の時計を見た。まだ授業が始まってから20分しか経っていなかった。ぼくはこの3限目が始まってから、うんちのことばかり気になって時計をみていなかったことに気付いた。ぼくにとって、教室から抜け出して「男子児童便所」に行っていた時間はすごく長く感じられたけど、学級で論争していたクラスの子にとってはあっという間の時間なんだろう。
そして、そっと机のイスを引いて座ると、ぼくは何事もなかったかのように、この学校のこのクラスの子に戻った。でも、においも何もしないけれど、トイレから行って帰ってきた自分の体がヘンに汗ばんでいてなんか汚れてしまったような気がした。硬い木製のいすにさっきうんちが出た感じがしたばかりのおしりの穴が当たっている感触は、ズボンとパンツの上からでも汚いような気がして落ち着かなかった。「男子児童便所」の便器に残ったままになっているはずのぼくのヨゴレも気になって仕方がなかった。絶対、休み時間になったら行ってみよう。でも、それに何よりも強烈で今でも目にちらついて離れないのは便器の底にたまったぼく自身のうんちだった。学校で自分のそれを見てしまった以上、ぼくはもう死ぬまでウンコマンだった。

でも、ぼくはそれでラクになった。ラクになったことも恥ずかしかったけど、二人の論議を聞く余裕がてきていることには気が付いた。聞いていると、うんちすることで行くことで頭がいっぱいだった状態では気が付かなかった。二人の意見の問題点が頭の中にひらめいた。

「よしお君・昌子ちゃん聞いて! キャサリンもジョンも間違っているところも正しいところもあるよ」と切り出して、その問題点を思いつくまま言った。そんな自分に、ぼく自身自身もそれまで頭の底に沈んでいたものが突然吹き出してくるようで驚いた。
しかも考えていることがすらすらとそのまま言葉になって口から出てきた。そのとき、ぼくの意識からうんちのこともおしりの穴の感覚も完全に消えていた。そのことを考えていなかったのは2限の理科室以来だった。
すると、それまでろくろく発言しなかったぼくがいきなり発言して驚いたのか、二人は二人とも一瞬きょとんとして、顔を見合わせたが、すぐに「そうね、それ は気が付かなかったわ」「●●のいうとおりだよ」と二人も納得した。他のメンバーも二人が納得すれば納得するしかなかった。気がつくと先生が脇に立っていて、ぼくの発言を聞いていた。
先生は軽く拍手しながら「その意見、先生も賛成です。みんなの前で言って発表してもらえない」と言ったきた。
そして、先生は黒板の前に立つと、手をたたいて「みんな! ●●君がとても素晴らしい意見を発表します。皆さんも●●君の意見を聞きましょう。●●君前に来て」と呼びかけた。ぼくは先生に請われるままに「はい」と答えて黒板の前に思いつくままにしゃべった。話しながら、みんなの前で話すぼくの声はとてもよく響いていたことに気づいた。おなかの中にうんちがたまっている状態で同じように先生に発表してねと言われても、たぶんこんな声は出なかった。きっとうんちを出してきたから、こんなに声がよく出て堂々と発表できているんだろうな、ということにぼくは気づいた。
話が終わると、「一時はどうなるかと思っていたけど素晴らしい意見でまとめてくれたわね、先生もそう思うわ」とみんなの前でぼくをほめてくれた。うんちすることは本を読んだり計算したり走ったりといった学校ですることと一番遠いことと思っていた。でも今、ぼくはうんちしたことで結果として先生にほめられている・・・。そして先生は「とても立派な態度で素晴らしい意見を発表してくれた。●●君に拍手!」と呼びかけた。それに応えてクラスのみんなも黒板の前に立つぼくに盛大に拍手した。
ぼくはうんちしたことを拍手されているように思えて、顔が少し赤くなった。あんな汚いことしたのに、そのことでこんなにみんなに拍手されているなんて、本当にぼく一人だけの秘密なんだ。